前回のエントリー「VCを入れるつもりの無いスタートアップでも知っておいた方が良いこと」に引き続いて、今回も情報の価値について書きたいと思います。
創業初期の重要な経営判断には、以下のようなものがあります。
- 共同創業者(誰とやるか、何人でやるか、上下関係をどうするか)
- 資本政策(共同創業者の持株比率をどうするか、友人や親戚に出資してもらうべきか、シード投資を受けるべきか)
- チームビルディング(最初の数名の社員にどういう人を採用するか)
- プロダクト(世の中のどのような課題を解決するものか、市場はどこを選択するか)
それぞれについて、ある判断をして実行した結果、状況が良い方向に進展しそうなことはたくさんイメージできます。反対に、悪くなる可能性があることもそれなりにはイメージできます。
ただ、ひとつひとつの経営判断が長い時間軸で見てどういう意味を持つのか、それぞれの経営判断がどのような因果関係で結びつくのかということは、その時には気付きにくいものです。
地雷的な経営判断の特徴として、ちょっとした良い結果は比較的早く、深刻なレベルで悪い結果はかなり遅くになって顕在化することが多いです。初期の矛盾から目を逸らして短期的な成果を求めた結果、その矛盾が忘れたころに大きなものになって目の前に現れるというイメージ。
例えば最初の数名のエンジニア採用について、若手中心のポテンシャル採用で乗り切ったとします。その間にプロダクトは完成したとしても、その最初の数名と創業者が作る企業文化が技術軽視だったりすると、しばらく経ってから「良いエンジニアが入ってこない」「良いエンジニアがすぐに辞めてしまう」ということが起きたりしがちです(これはあくまでひとつの例で、そうならない事例もたくさんあります)。
地雷はある程度回避することができる
少し話は逸れますが、先日読んだ本を紹介したいと思います。

- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08
- メディア: 文庫
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この本は組織論の視点から旧日本軍の意思決定プロセスや人の心理を考察していて大変読み応えがあります。初版は30年以上前にも関わらず、今日の会社組織に通用する部分も非常に多いのでオススメです。
この本に以下のような興味深い記述がありました。
戦闘は錯誤の連続であり、より少なく誤りをおかしたほうにより好ましい帰結をもたらすといわれる。戦闘というゲームの参加プレーヤーは、次の時点で直面する状況を確信をもって予想することができない。
(中略)
作戦計画の立案とその達成過程において、どちらがより錯誤が少ないかということがポイントなのである。
経営者は決めるのが仕事、という人が居るように、自分で考えて判断するのはもちろん重要です。ただしその大前提として、良質なインプットが無いと良質な経営判断はできないという側面もあります。それがうまくできないから、「スタートアップは勝手に自爆して負ける」と言われるのです。
地雷を防げるということは先を読むことができるということです。優れた経営者はこれがとてもうまい。どうやったら勝てるかを予測するのは確かに難しいのですが、何をやったら負けてしまうかは意外と予測ができます。そして良質な経営判断をするための情報は、その時に自分が持っていなかったとしても、ちゃんと探してみれば意外とすぐに見つけることができるのです。
それは時には書籍であったり、時には(良質な情報を持っている人からの)助言であったり、時にはディスカッションからの気付きであったりします。
大きくスケールするために
この話は大きくスケールするため、つまり攻撃のための話であって、失敗をもっと恐れようという守りの性質の話ではないことには注意する必要があります。
経営を正しくコントロールしレバレッジが効く状態を保ち続けるためにも、起業家には情報戦の中を生き抜くスキルが求められます。そして自分が戦っている相手は自分より良質な情報を持っている可能性がある(特にシリアルアントレプレナー)ということも、正しく認識しておく必要があります
闇雲に起業家を煽るだけではなく、そういう前提まで起業家にきちんと伝え、その上で一緒に戦略を考えて実行する。これが周りで支える人たちの責任だとも思います。
最後にもう一冊本の紹介。これもすごく良い本です。

起業家はどこで選択を誤るのか――スタートアップが必ず陥る9つのジレンマ
- 作者: ノーム・ワッサーマン,Noam Wasserman,小川育男
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2014/01/24
- メディア: 単行本
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ほとんど私が踏んだ地雷について書かれた本です。自伝かと思いました。この本のおかげで、自分のひとつひとつの失敗や、全く異なる時期に起きた出来事がどのような因果関係で結びついていたのかといったことについても、すべて言語化できるようになりました。
良い本と言いましたが、もしかしたら地雷を踏む前の人がこの本を読んでも、実体験と重ならないのでピンと来ない部分があるかもしれません。だからこそ自分の体験や言葉に置き換えて、より温度感のある情報として伝えていくことで、スタートアップを志す人たちの資産として共有していきたいと思っています。