スタートアップとして起業する時に、単に代表取締役や取締役ではなく、CEOやCTO、COOといった肩書きを付けるケースは珍しくなくなってきています。スタートアップの事情を知らない人たちから見ると、ちょっと気取った感じに見えなくもないですが、私はこういう肩書きを付けること自体には反対ではありません。
ただし、創業期に安易にCTOやCOOなどの肩書きを付けると、それが原因で後々揉めることがあります。
肩書きで起きる問題は肩書きで解決しよう(もちろんそれが全てではないですが)ということで、少し考えてみたことを書いてみます。
プロダクトのグランドデザインに対して最終決定権を持つのはCEO?CTO?
例えば、ビジネス系出身のCEOと開発系出身のCTOというチームで起業した場合、プロダクトのグランドデザインに対して最終決定権を持つのはどちらでしょうか?CEOでしょうか?それともCTOでしょうか?
この場合、「プロダクト統括責任者」のような肩書きをどちらか一方に兼任させることで、役割はいくらか明確になります。
CEO 兼 プロダクト統括責任者
もしくは
CTO 兼 プロダクト統括責任者
プロダクト統括責任者の部分は、CCO(Chief Creative Officer)やプロデューサーでも良さそうですね。
またCTOという役割について、「経営状況や事業戦略に対して、インフラや技術の選定などで責任を持つ」「社内外への技術ブランディングに対して責任を持つ」など期待する事項が明確になっていれば、「スキルが足りないけれど企画力はあるエンジニアにCTOという肩書きを付けてしまった」という問題も防ぐことができます。
COOって何をする人?開発以外のこと全般?営業責任者?
COOの役割もまた、不明瞭になりがちです。
経営幹部であるCOOと現場のマーケティング責任者が別で存在していて、メンバーがどちらに相談事を持って行ったら良いのか分からない。COOが実質的に営業部門の責任者であるにも関わらず、後から入社した人はマーケティングや採用までやる人だと思っていて、「この人はCOOなのに、全然その仕事をしてないじゃん・・・」となってしまう。
こういうケースを防ぐために、COOが何に責任を持っていたり期待されていたりする人なのか、社内的に明示しておくであったりとか、場合によってはCOOという曖昧なポジションを排除して、CMO(Chief Marketing Officer)、営業統括責任者、採用戦略担当などの肩書きに細分化してしまうことまで検討してみましょう。
重要なのは、何らかのリーダー的ポジションにいる人物が、何に責任を持っているのかを分かりやすく社内に示すことです。
足りないポジションを兼務で表現するという発想
「本当は別の人をアサインしたいのだけれど、適任が見つからない・・・」という時も、肩書きを兼務にしてしまうという方法もあります。
例えば営業責任者として優秀な人材を探している期間中だけ「CEO 兼 営業責任者」にするであるとか、同様な感じで「CTO 兼 CCO」「COO 兼 採用戦略担当」のようにして、実際に採用できたら分割していくという発想です。
「この兼務状態を外してくれる人を早くみんなで見つけよう!」的な意思表示ですね。
自身に不足している能力を自覚するために肩書きを付ける
戦略という視点が足りず、場当たり的な経営判断ばかりで失敗していたという話は、スタートアップあるあるです。これに気付いたら一歩前進、戦略の設計と運用までちゃんとできたらさらに前進です。
この視点が不足しているという自覚があるCEOは「CEO 兼 CSO(Chief Strategy Officer)」という肩書きを自身に付けた上で、戦略の設計と運用を社内にコミットしてみましょう。
ビジョンが現場に浸透せず、仕組みにも落としこまれず、形骸化してしまっているという話もまた、あるあるです。ビジョンが元々無くて、ある日になってその重要性に気付いた、というケースもよく耳にします。
こういう場合は「CEO 兼 CVO(Chief Visionary Officer)」という肩書きを自身に付けた上で、ビジョンが正しく機能するための社内制度であったりとか、人材採用であったりとか、日々の啓蒙に対してコミットしてみましょう。
CSOにしろCVOにしろ、それを付ける以前とは経営者としての振る舞い方も、社内のメンバーの経営者に対する見方も何らか変わってくることと思います。地位が人を作るという発想です。そんなことしても現場は冷めてるし・・・的な答えが返ってくるような会社は論外なので、別の施策が必要かもしれないですね。
各役割のコミットメントの達成度をどう測るか(課題)
実際に肩書きや役割を明確にしたら、期待された役割に対するコミットメントの達成度をどう測るかが次の課題になります。特に経営幹部の場合、基本的には上長がいなかったりするので、一般的な評価制度をそのまま用いるのはかなり難しそうな感じがします。
かといって、経営幹部間で相互評価するとか、VCから派遣された社外取締役に評価してもらうとかというのも微妙です。前者は得意領域が違いすぎる割に立場が近すぎますし、後者は常に会社にいるわけではないので、まぁ正しく評価できないでしょう。言ってしまえば、素直に受け入れにくいというわけです。
初期的にはもう少し緩めに、現場のメンバーから定性的なフィードバックを得るくらいでも良いかなとは思います。
まとめ
深い意味を考えずに肩書きを付けるくらいなら、普通に代表取締役や取締役などで良いと思います。一度CTOのような肩書きを付けてしまうと、後からもっと良い人材が入ってきた時にプライドが邪魔して変えづらいということもあり得ますし。
その意味で、会社の状況に応じて肩書きは変化する、肩書きはうまく活用するものだということを共通認識として持てておくと、運用により柔軟性が出てきそうです。
冒頭に述べたように、肩書きの整理が社内のあらゆる課題を解決させるわけではありません。一方で、こういう細かいこともこだわって考え抜いてみることで、自社の課題が明確になったり、経営基盤をより強固なものに進化させることができたりもします。